
日本でもどこでも、人間は、変革に対しておのずと抵抗するものであります。
若き鷹山は、変革を成し遂げなければなりませんでした。それ以外の救済は不可能でした。
しかし変革は、他人を待つのではなく、まず自分から始めなくてはなりません。
当然、財政は最初に解決を迫られる問題でした。少しでも秩序と信用を回復するには、極度の倹約しかありません。
藩主みずから、家計の支出を、千五十両から二百九両に切り詰めようとしました。奥向きの女中は、それまで五十人いたのを九人に減らし、自分の着物は木綿にかぎり、食事は一汁一菜をこえないようにしました。
家来たちも同じく倹約をしなければなりませんが、それは鷹山自身とは比較にならない程度の倹約でありました。
毎年の手当も半分に減らして、それにより実現した貯金は、積もった藩の負債の返済に廻されることになりました。
このような状態を十六年間もつづけることにより、どうにか重い債務から脱することができるのであります!
しかしながら、これは、まだ財政改革の消極的な面にすぎませんでした。
『代表的日本人』内村鑑三(p.59)より。
このようなストーリーを見聞きすると、よくあるのは2つの反応だと思います。
リーダーとしてこういう自分になろうと思うのか。
もしくは、それとも自分のリーダーはこういう素晴らしい人間ではない、と思うのか。
もちろん、どちらも湧いてくることもあるでしょう。
私がここで、リーダーとしてどうあるべきなのか、ということを語るにはふさわしくないと感じますので、それは内村鑑三に譲るとして、
ここでは「どのような心理でこのようなことを、鷹山が実行していたのか」というところに意識を向け、思いを馳せたいと思います。
前回の『小さな炭火』の話から、じゃあここからいよいよ藩の改革をしなければいけない、というときに、まず取り掛かったのが多額の借金問題。
少し背景をおさらいすると、戦国時代に勢力を伸ばし、豊臣政権のもとでは会津若松120万石の大大名になった上杉家ですが、関ヶ原の戦いで西軍についたため徳川家康によって、米沢に移され、石高も大幅に減らされました。
そうやって収入は減ったにも関わらず、家臣は削減することなくそのまま、つまり今で言う人員削減を行いませんでした。暮らしぶりも、もちろんいきなり質を落とすことができないのは、今も昔も同じ。また、徳川家との付き合いの中で贈り物を贈り贈られ、見栄もあったとかなかったとか…。そうする間に、必然的にどんどん借金が大きくなりました。
ということで、細井平洲の教え「入を量り出るを制す」を実行に移すのですが、それにあたって鷹山に、強い強い「人を変えようという意識」はなかったのではないかな、と思うのです。
ちょっと説明が難しいのですが…藩を改革しないといけないので、人に変容をもたらさないといけないのは確かです。
藩に、そして人に変革をもたらすために実行しなければいけないのも確かです。
でも、だから実行した、というよりは、高鍋藩から養子でやってきた鷹山だからこそ、上杉家の歴史に惑わされることなく、慣習にとらわれることなく、今の上杉家の現状を把握して、だったらこれが妥当では?ということを実践したのではないかな、と思うわけです。
そして、内村鑑三もおっしゃるように「人間は、変革に対しておのずと抵抗する」ものだということを理解していれば(前向きな諦めとも言えるかもしれません)人を変えるよりも、まず自分から実践しよう。
そう思った結果が、自然と「奥向きの女中は、それまで五十人いたのを九人に減らし、自分の着物は木綿にかぎり、食事は一汁一菜をこえない」ということにつながったのではないかと思うのです。
それは自己犠牲とも違います。
自分が犠牲になればいいと思うところではありません。
まずは自分の周りのことから、できることから始めるということが、上記の方法に至ったにすぎないのではと思うのです。
そして、模範になることの重要性は細井平洲の教えにもありますが、またその意識がゼロだったとは思いませんが、模範になることを念頭に置いたというよりも、まずは自分から、ということだったのだと思うのです。
無理だと思うような大きなことを目の前にしたときに、自分の周りのことから、自分の中の変革から始める。それを体現することから始める。
まずは小さな一歩から。
その思いが現れていた、感じ取れたからこそ、家臣たちがきっと不満に思いながらも、他所からやってきた若い藩主に着いていったのだと感じます。
どんな思いから行動をするのか。
それが周りに影響を与えるのだと思います。
(森本菜都美)
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